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分析条件は「装置」ではなく「化合物」から決まります ―
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分析法開発における前提条件
HPLCで分析を行う際、最初に必要となるのは、自由に使用できるHPLC装置を確保することです。分析法開発は短時間で完結する作業ではなく、単純な化合物であっても少なくとも1日は必要です。構造が複雑な化合物や多成分分離の場合には、数週間から数か月を要することも珍しくありません。
また、開発した分析法を別の施設や装置で運用することを前提とする場合には、高圧グラジエントシステムの使用が強く推奨されます。低圧グラジエントは装置依存性が大きく、再現性の点で不利になることが多いためです。
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情報収集:分析は「検索」から始まります
HPLC装置が確保できたら、次に行うべきことは化合物に関する情報収集です。
・化合物名による文献検索やWeb検索
・HPLC装置メーカー、カラムメーカーが提供する分析データベースの活用
例えば、インタクトのカラム・アプリケーションデータベースでは、化合物名や化合物分類名から分析条件を検索することができます。
https://www.imtakt.com/DB/
これらの情報から、既存の分析条件や分離モード、検出法の事例を把握します。
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構造情報の重要性
化合物の分析情報が見つからない場合には、必ず化合物の構造情報を調べる必要があります。
構造が分からないまま分析条件を設定することは、経験的にも科学的にも成功の可能性が極めて低くなります。
HPLC分離を支配する要因はすべて化合物構造に基づいています。
・極性・疎水性
・官能基の種類 ・解離性(酸性・塩基性、pKa、等電点)
・イオン化状態(カチオン、アニオン、双性イオン)
・検出に適した物理化学特性(UV吸収、MS応答など)
化合物名だけを手がかりに分析条件を自力で見つけ出すことは、ほぼ不可能です。
仮に既存の分析法が見つかったとしても、なぜその条件が成立しているのかを理解せずに追従している限り、本当の意味での分析法開発にはつながりません。
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分離モードと固定相選定
分析法検討の初期段階では、まず逆相分離 (ODS, たとえば
Cadenza CD-C18,
Unison UK-C18 )で保持できるかどうかを検討するのが一般的です。
十分な疎水性がない場合には、次のような分離モードを検討します。
・極性固定相による順相分離 (たとえば Imtakt Unison
UK-Silica,
UK-Amino,
Nardis
ND-NX ) ・混合モード:逆相+イオン交換 (
たとえば Scherzo
C18,
Nardis
ND-RX )
カラム選定にあたっては、メーカーが提供するカラム選択ガイドを利用し、自分の化合物に近い構造や分離条件の事例を参考にすることが有効です。
インタクト カラム選択ガイド
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カラムサイズの選択
【内径】
検出器や試料量に応じて、カラム内径を選定します。
・LC-MSや微量試料分析では、3 mm 内径が推奨されます。
2mm 内径よりも理論段数と操作性のバランスが良く、グラジエント分析との相性が高いためです。
【長さ】
・分析検討初期では、50-75 mm 程度の比較的短いカラムを使用します。 短時間で多くの条件検討ができるためです。
・異性体分離など高い分離性能が必要な場合には、最初から150
mm 長のカラムで検討する必要が生じることもあります。
・多成分分離では、100 mm
長で条件探索を行った後、250 mm 長の高分離性能カラムを用いて、60分程度の長時間分析で精密分離を行う場合もあります。
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検出器の選択
検出器は、分析対象物質の構造と分析目的に基づいて選定します。
・UV-VIS検出器
芳香族化合物や共役系、UV吸収を持つ官能基を有する化合物に適しています。
・MS検出器
高感度分析や化合物同定、複雑なマトリックス中の分析に有効です。
検出器の選択は移動相組成(揮発性、塩類濃度など)にも影響します。
検出器だけでなく、カラムへの負荷を考慮するなら、移動相に添加する酸や塩類、緩衝液は揮発性の酢酸/酢酸アンモニウムやギ酸/ギ酸アンモニウムの組みあわせが強く推奨されます。
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移動相設計の基本戦略
逆相HPLCでは、通常以下の組み合わせを基本とします。
・水系溶液(酸、塩類などを含む) + アセトニトリル(またはメタノール)
分析検討の初期段階で、いきなりアイソクラティック条件を設定することは避けるべきです。
まずはグラジエント条件により保持挙動を確認し、その後、必要に応じてアイソクラティック条件へ落とし込みます。
アイソクラティック分析条件を確定する場合は、単一移動相溶液を調製する必要があります。ポンプ混合による方法はミキサー効率などの理由から分子レベルで混合された移動相にはならない可能性があり、再現性が懸念されます。
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pH・イオン強度の設計
解離性官能基を持つ化合物では、次の要因が分離挙動に大きく影響します。
・移動相の pH
・イオン強度 ・対イオンの種類
pH調整は単なる数値合わせではなく、化学平衡を制御する操作であることを理解する必要があります。再現性の観点からは、pHメーターを用いない調製法が望ましいとされています。
(参考)
HPLC移動相のpH調整が必要な理由
移動相のpH調整にpHメーターは使わない
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グラジエント方式と再現性
確立した分析条件を別の施設で運用する場合、低圧グラジエントでは再現性が得にくいことがあります。そのため、分析法の汎用性や再現性を重視する場合には、高圧グラジエント方式が推奨されます。
(参考)
HPLC 高圧・低圧グラジエントとは
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条件最適化と定量分析
ピークが確認できた後は、以下の点を評価しながら条件の最適化を行います。
・ピーク形状
・保持時間 ・分離度
必要に応じて、
・有機溶媒の種類や比率
・pH ・イオン強度
を再検討します。
定量分析を行う場合にはさらに、
・検量線
・検出感度 ・直線性や再現性
といった評価が必要になります。
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注入試料溶液
試料が移動相に溶ければ良いのですが、常に溶けるわけではありません。試料溶液中の化合物の分散性が悪い場合にはピーク形状にリーディングなどの悪影響が出ます。
注入試料中の化合物は分子レベルで完全に分散している必要があります。化合物1分子がHPLCカラムの固定相1分子と分子間相互作用するのがHPLC分離の原理だからです。
(参考)
試料(溶質)を移動相に溶解することは正しい?
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分析法の堅牢性
できあがった分析法により数回の繰り返し分析をおこない、再現性を確認します。保持時間やピーク面積、圧力、ピーク形状など分析結果にが生じた場合は分析法が堅牢ではないと考えるべきです。もう一度試料の前処理から、移動相組成(特にイオン強度)などを見直す必要があります。また不安定な試料は数回の分析でピーク高さが変化したり不純物が現れたりします。このような試料は安定化方法を検討するか、用事調製により分析することが必要となります。
1本のODSカラムですべての化合物を分析したい、という人がいますが、これは不可能です。化合物と固定相のあいだには「分子間相互作用」がはたらいており。物質の性質に応じた固定相を選択する必要があるからです。そして分子間相互作用には分子構造情報(特にイオン性)が不可欠です。
物質の構造を見ずに偶然成功した分析法は、再現性も応用性も持ちません。
(参考)
MOLECULES in
CHROMATOGRAPHY
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