HPLC固定相の相互作用  

HPLC固定相にはたらく分子間相互作用と分離モード
HPLCカラムにはいろいろな種類があり,それぞれに「分離モード」があります。
分離モードを支配しているおもな要因は,溶質と固定相との間にはたらく「分子間相互作用(分子間力)」です。
インタクトのカラム製品で取り扱う分離モードや分子間相互作用に関して,以下に解説します。

 順相(Normal-Phase)と逆相(Reversed-Phase)の定義

 おもな分離モード

順相モード (Normal-Phase, NP)

固定相の極性が,移動相の極性よりも 高い ときの保持・分離モードです。
移動相の極性を上げると溶質の保持は小さくなります。
低極性溶媒としてのヘキサンなどで保持し,高極性溶媒としての酢酸エチル,THF,メタノール,水(酸や塩の水溶液)などの比率を高めると溶出が早くなります。
固定相としては,シリカ(UK-Silica),アミノ(UK-Amino)カラムなどが該当します。
主たる相互作用は,静電的相互作用です。
いわゆるHILICモードもこの順相モードに該当します。

逆相モード (Reversed-Phase, RP)

固定相の極性が,移動相の極性よりも 低い ときの保持・分離モードです。
移動相の極性を上げると溶質の保持は大きくなります。
高極性溶媒としての水(酸や塩の水溶液)などで保持し,低極性溶媒としてのメタノール,アセトニトリル,THF,アセトンなどの比率を高めると溶出が早くなります。
固定相としては,C18(CD-C18, UK-C18など), C8(UK-C8), C1(UK-C1), Phenyl(UK-Phenyl)などが該当します。
見かけ上の主たる相互作用は,疎水的相互作用です。

イオン交換モード (Ion-Exchange, IEX)

アニオン基やカチオン基が導入された固定相とイオン性溶質とのあいだにはたらく,イオン-イオン相互作用による保持・分離モードです。

溶質がアニオンで固定相がカチオンの場合: アニオン交換 (AX)

溶質がカチオンで固定相がアニオンの場合: カチオン交換 (CX)

固定相のイオンリガンドがスルホン酸のような強イオンのときは「強イオン交換体」,カルボン酸のような弱イオンのときは「弱イオン交換体」といいます。

これらを合わせると,以下のような名称となります。

溶質がアニオンで固定相が強カチオンの場合: 強酸性アニオン交換モード (SAX)

溶質がアニオンで固定相が弱カチオンの場合: 弱酸性アニオン交換モード (WAX)

溶質がカチオンで固定相が強アニオンの場合: 強塩基性カチオン交換モード (SCX)

溶質がカチオンで固定相が弱アニオンの場合: 弱塩基性カチオン交換モード (WCX)

固定相や溶質のイオン性の強さやpHによってイオン的相互作用が変化するために,溶質の保持挙動も変化します。
一般に低イオン強度の移動相で保持し,移動相のイオン強度を上げると溶出は早くなります。
イオン交換モードを支配する相互作用は,イオン的相互作用です。

固定相としては,アミノ(UK-Amino,アニオン交換)やシリカ(UK-Silica, カチオン交換)の他,マルチモードODSカラム Scherzo ( SS-C18, SM-C18, SW-C18,アニオン交換+カチオン交換 )などが該当します。

 分子間相互作用 (分子間力)

疎水的相互作用 (Hydrophobic Interaction)

C18などの固定相の疎水基と溶質の疎水基が「見かけ上」引き合うことでカラムに保持する弱い相互作用であり,逆相分離モードにおける主たる相互作用です。
移動相には水などの極性溶媒が必要で,実際には極性溶媒から疎水基が排除される結果「疎水的に結合しているように見える」現象です。
疎水的相互作用は弱い相互作用であるために,「アイソクラティック溶出」が可能な場合が多くあります。

静電的相互作用 (Electrostatic Interaction)

シリカ(シラノール,シロキサン)やアミノ基のような極性の高い固定相に対して,極性の高い溶質が「双極子-双極子」などによって静電的に引き合う相互作用です。 「水素結合」もこれに属します。
おもに順相分離モードを支配する分子間力です。
Phenyl固定相のπ電子も静電的相互作用に関係します。
疎水的相互作用よりも強いため,基本的には「グラジエント溶出」が推奨されます。

イオン的相互作用 (Ionic Interaction)

イオン交換カラムに代表される陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)が互いに引き合う強い相互作用です。
固定相がカチオンで溶質がアニオンの場合は「アニオン交換(AX)」,逆の場合は「カチオン交換(CX)」といいます。
イオン結合を切ってカラムから溶出させるためには,基本的には「移動相のイオン強度を上げる」必要があります。たとえば塩濃度グラジエントです。
相互作用がかなり強いため,アイソクラティック溶出法は一般的にかなり困難です。
「逆相イオン対法」もイオン対試薬種や濃度によってはイオン交換モードになるために,アイソクラティック溶出ではメソッドの堅牢性が得にくい場合があります。

配位的相互作用 (Chelating Interaction)

キレート錯体などのように,孤立電子対を空軌道に供給して共有結合を作る極めて強い相互作用です。
HPLCでは固定相上の金属不純物と配位性溶質との間にはたらく非特異的相互作用(ピーク形状の劣化)として多く見られます。 配位子交換型のカラムに利用される相互作用でもあります。
 Unison と Cadenza の相互作用比較
 物質の保持や分離とは
一般的な分配モードにおいては,以下のように考えられます。
「保持」とは,溶質-固定相間にはたらく分子間相互作用の総和
「分離」とは,溶質-固定相間にはたらく分子間相互作用の総和の違い
(文責: 矢澤  到)

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