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HPLCで分析を行ったにもかかわらず目的化合物のピークが検出できない、というトラブルは、初心者から熟練者まで起こりうる問題です。
この現象は大きく分けて、分析法開発初期段階で起こる問題と、分析法確立後の運用段階で起こる問題の2つに分類できます。
1)
分析法開発初期段階における「ピークが出ない」原因
分析法開発の初期では「ピークが出ない」こと自体は異常ではありません。
ピーク溶出しないことはむしろ、溶出できる条件を探すための重要な情報でもあります。
まず最も基本的な原因として、移動相組成が試料化合物に適していないことが挙げられます。
化合物の極性(疎水性)やイオン性(pKa, pI)、検出方法
などを考慮せずに条件を設定すると、以下のようにピークが確認できない状態に陥ってしまいます。
・固定相と強く相互作用しすぎてカラムから溶出しない
・カラムに全く保持されず、非保持ピークに埋もれてしまっていた ・溶質が注入溶媒に全く溶解してないことに気づいていなかった
・検出方法や感度が適切でないためにピークの溶出に気づかなかった
状況を把握する上で重要なのが、カラムを装着しないで標準物質溶液を注入するフローインジェクション分析(FIA)です。カラムを外し、検出器まで直接試料を流すことで以下のことがわかります。
・そもそも検出器でピークとして認識できる化合物なのか
・検出波長や検出方式(UV, MS, ELS 等)は適切か
ここでピークが検出できなければ、問題は分離条件以前にあります。
次にカラムを装着した場合、最初からアイソクラティック条件で判断するのは避けるべきです。
分析法開発の初期では、グラジエント溶出を用いてどこかの保持時間にピークが現れるか、を確認するのが基本です。
グラジエントを用いてもピークが検出されない場合は以下が考えられます。
・移動相の溶出力が不足している
・分離モード自体が化合物に適していない
移動相の溶出力が不足している対策は以下が考えられます。
・溶出力の強い有機溶媒に変更、たとえばTHFやアセトン
・固定相の変更: C18 -> C8 (
Imtakt Unison UK-C8 など) C18 -> C1 (
Imtakt Unison UK-C1 など)
分離モードの変更に関しては以下の項目が考えられます。、
・逆相 -> 順相
・逆相 -> イオン交換モード
・複数の分離モードの組みあわせ (
Imtakt Scherzo C18 など)
溶出位置が確認できたら分離度や分析時間を考慮しながら、以下のような種々の条件を最適化することが望まれます。
・カラム長、内径
・移動相組成、pHイオン強度調整剤 ・流量、温度
・ピーク形状や直線性
2)
分析法確立後における「ピークが出ない」原因
すでに確立された分析法でピークが突然検出できなくなった場合、原因の多くはオペレーション上のエラーにあります。
最も頻度が高いのは、以下のような移動相の調製もしくは選択ミスです。
・移動相AとBの取り違え ・有機溶媒と水の混合比の取り違え
・pHやイオン強度調整の間違い
これらは保持挙動を大きく変化させ、結果としてピーク消失を引き起こす原因となります。
移動相調製にミスがない場合に考慮すべきことは装置の不具合です。
・ポンプの送液不良
・チェックバルブのトラブル ・インジェクターの詰まりや注入不良
・検出器ランプの劣化、設定ミス ・検出信号のデータ処理装置への伝送不良
これらは「ピークが出ない」という同じ現象を示すが、原因は分離条件とは無関係です。
3) メソッドの堅牢性(分析法バリデーションと再現性の視点)
分析法を実用分析に供する場合、分析法バリデーションが不可欠です。
ピークが検出されない、あるいは再現性が取れないという堅牢性に欠けるメソッドは、往々にして以下の状況で顕在化します。
・分析者が変わった
・装置や分析室が変わった
特に室間再現性の検証では、「誰が」「どこで」「どの装置を使っても」同じ結果が得られるか、という視点が重要になります。
そのためには、以下のことを留意する必要があります。
・移動相調製手順の明確化
・分析条件(装置やグラジエント初期化時間、カラム洗浄時間など)の数値化
・あいまいな操作の排除
これらが不十分な分析法では、ピーク消失や保持の再現性というトラブルが懸念されます。
「ピークが出ない」からといっていきなりカラムを疑うのではなく、まずは自分の操作や分析環境を振り返ってみることが肝要です。
(参考)
二種類のHPLCグラジエントシステム
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