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HPLC分析で保持時間やピーク形状が変動する原因


HPLCカラムを替えたら保持時間やピーク形状が変化した、というトラブルの原因にはいくつか考えられます。

1. 装置環境
カラムと同時に装置も替えた場合は、装置環境の変化を疑う必要があります。
グラジエントシステムの場合は、ミキサー容量の違いに起因する遅れ時間の差が保持時間の差となって顕著に現れます。室間再現性などグラジエント分析で同じ保持時間を得たいなら、全く同じメーカーと機種、さらにはモデルバージョンも同じ装置を導入することが必要となります。

低圧グラジエントシステムでは移動相混合の仕組みがメーカーで異なりますから、同一装置以外の比較においてはグラジエント勾配とそれに伴う保持の再現はかなり難しくなります。

(参考資料)
グラジエントシステムの違い

アイソクラティック分析においてもポンプ流量の微妙な差が保持時間の差となって現れる場合があります。メソッドバリデーションを実施する前に必ず「システム適合性試験」を実施して、流量精度を確認することが望まれます。


2. カラム間差
同一装置、同一試料、同一移動相の場合でもカラムを交換したら保持が異なる場合があります。これは充てん剤バッチが異なるためです。リガンド量や残存シラノール量の違いが保持やピーク形状の違いとなって現れます。
1本のカラムにより作成したメソッドでしかもそのカラムを用いて実分析運用することは極めて危険な行為です。メソッドを作ったカラムでそのまま運用し続け、数年後にカラム劣化したために新しいカラムに交換したら再現が取れない、というトラブルが多く見受けられます。
固定相表面のリガンド分子数をまったく同じに製造することは不可能です。メソッドを作成したら、ただちに違うカラム(できれば異なる充てん剤バッチ)によりメソッドの堅牢性を確認することが重要です(分析法バリデーション)。


3. 分析条件
分析法が堅牢でない場合、新品カラム間でも保持・分離やピーク形状の違いが出る場合があります。この主な原因は「移動相のイオン強度不足」にあります。
イオン性物質を水/有機溶媒のみで分析すると、解離(高極性)と非解離(低極性)の状態が中途半端になるため保持やピーク形状が不安定になる懸念があります。移動相にpH調整剤を添加していたとしても濃度不足のために溶質の解離制御ができず再現性のない結果になることがあります。たとえば1mM 塩類です。

シリカ系固定相の表面には酸性シラノールが存在するために、塩基性化合物とイオン的相互作用により保持する傾向があります。またシラノール分布の不均一さによりピーク形状がゆがむ可能性があります。カラムを替えるとシラノール量も変化するため、イオン強度不足のメソッドではピークの保持や形状が変動する恐れがあります。
カラムを替えても同じ結果になるようにするには、移動相中のイオン強度を上げることが必要になります。たとえば50-100mM 塩類です。

エンドキャッピングの良さを示す目的でピリジン/フェノールを例に出すカラムメーカーもありますが、ピリジンのような弱いイオンでも移動相中にpHやイオン強度が制御されていない場合繰り返し分析で徐々にピークの変化が生じる可能性があります。さらには実試料に含まれるイオン性不純物が固定相に吸着すると、それが溶質の保持やピーク形状にイオン的な影響を与えることになります。三級アミンのような強いイオンを水/有機溶媒だけで分析することはなおさら危険です。
溶質構造にイオン性があるなら、必ずpHだけでなく適切なイオン強度を有する移動相設計が重要となります。

溶質がイオン性でなくてもアミドのような極性基を有する溶質構造はシラノールやシロキサンの強い静電的相互作用を受けるためカラムを替えると保持やピーク形状が変動することがあります。移動相のイオン強度を上げることやpHや温度を変化させることで再現性の向上が期待できます。

移動相pHやイオン強度の調整にはpHメーターに頼らないことが肝要です。

(参考資料)
移動相緩衝液の調製方法


メソッドの室間再現性を高めるには、カラムを替えても同じ結果が得られるような頑健な移動相設計が重要です。

シリカ系カラムに好適なpH調整剤

YE27 / 矢澤  到 [YAZAWA Itaru, hplc@imtakt.com]

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