カラムのコラム (Columns for Columns) 2022-09-27
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充てん剤粒子は小さいほど良いのでしょうか? <その1>

2007,8年だったと思います。米国の掲示板サイトで「3μmカラムなんて "too slow!" だ」とsub-2μmの発信者から全否定されたことがあります。
この10年間"UHPLC" という名の下に,高耐圧HPLC装置とsub-2μmカラムが世界を席巻しました。ある米国企業が唐突に宣言する前日まで「低圧カラムほど良いカラム」といわれていたにもかかわらず,です。その有名企業に引きずられるように世界の装置メーカーが追従し,今や「UHPLCはあたりまえ」の世界に変貌してしまいました。

「”分離科学(Separation Science)”の中心は”カラム”であって”装置”ではない」 との信念の元にカラムビジネスをはじめた私には,「sub-2μmありき」の風潮には納得できないものがあります。「UHPLCを導入したので,高耐圧カラムでないと使えない」とか,「圧力の高いカラムほど分離が良い」という声を聞くたびに悲しくなります。

「粒子径が小さいほどカラム効率は高い」というのは理論的には正しいし,学会では「そんなのあたりまえ」と当然のように扱われます。
でも本当にそうでしょうか?

 

[1] 充てん技術

理論と実際は異なるものです。カラムを日々製造している人にしかわからないことがあります。それは「充てん技術」です。
昔の本には「比重法」や「粘度法」という充てん方法の記述がありますが,私がビジネスを始めたとき,これらの方法では最高性能が得られないという結論に到り,独自の充てん方法を開発した経緯があります。つまり「インタクトのカラムにはすべて従来とは違う高性能を得るためのユニークな充てん方法が採用されている」わけです。

「粒子径が小さいほどカラム効率は高い」という理論は正しくても,実際に充てん技術が伴っていなければ「絵に描いた餅」になるだけです。事実sub-2μmカラムの最高性能は150mm長で3万段程度という情報がありますが,弊社の3μm粒子カラムでもそれに近い理論段数を低圧で出すことができます。
カラムが長くなるほど充てんは難しくなります。250mm長カラムに対するsub-2μm粒子の充てんは極めて困難と思われます。圧力上昇が早すぎるために充てん流量を上げられないからです。
充てん技術不足のメーカー内比較であれば,3μmカラムよりもsub-2μmカラムの方が性能が高くはなりますが,マーケット全体からすれば必ずしも3μmカラムよりも高性能になるとは限りません。インタクト3μmODSカラムはすでに20年以上にわたり250mm長で約5万段という高性能カラムの出荷を継続してきました。希なサイズですが500mm長で約10万段というカラムも販売しています。
高理論段に関しては今でも3μm粒子の方に分があると考えています。

[参考比較データ]

https://www.imtakt.com/TecInfo/TI707E.pdf

 

[2] 装置・カラムの高耐圧化問題

sub-2μmカラムにしても高耐圧装置にしても製造コストの上昇は避けられません。
HPLC装置としては,ポンプのモータートルクを強力(=コストアップ)にしないと吐出圧が上がりません。配管接続も高圧化しないとだめです。何よりもポンプヘッドやバルブの高耐圧化が難しいところで,スイッチングバルブの液漏れトラブルが多発している声をよく耳にします。この場合ユーザーのメンテナンスコストも上昇します。
カラム側としてもハウジングの高耐圧化(=コストアップ)をせねばなりません。sub-2μm充てん剤の製造コストも上昇します。
残念ながら従来からの安価なHPLCシステム(30-40MPa)がどんどん姿を消している現状があります。sub-2μmカラムを使う必要のないユーザーに対しても高耐圧のUHPLCしか選択できなくなっています。無駄な出費をしないですむような時代は終わってしまったのでしょうか。

 

[3] 分離性能

「高圧カラムは分離が良い」というのもサイエンスではありません。これは以下の三段論法的な考え方に起因していると思われます。

理論段数が高いほど分離が良い -> 微粒子ほど理論段数が高い -> 微粒子ほど圧力が高い => だから高圧カラムほど分離が良い

圧力と分離に関する計算式のファクターは異なります。すなわち圧力の計算式に分離のファクターは入っていませんし,分離の計算式に圧力のファクターは入っていません。計算上はお互いに無関係です。

「sub-2μmカラムの理論段数が高いのはあたりまえ」かもしれませんが,「理論段数が高いから分離が良い」とは限りません。たとえば分離度がゼロ(不分離ピーク)の場合,充てん剤粒子径をどんなに小さくしても分離度はゼロのままであり絶対に分離はできません。

UHPLCブームは「高圧=高分離」という非科学的な関連性から生まれた悲しいビジネス産物と思います。
分離を改善するには粒子径を小さくするよりもずっと簡単な方法があります。これを次稿で述べたいと思います。

     
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