カラムのコラム (Columns for Columns) 2022-10-20
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充てん剤粒子は小さいほど良いのでしょうか? <その2>
 

Sub-2μmカラムが必要な人たちがいることもわかりますし,微粒子カラムの存在を否定するつもりもありません。
重要なのは,「圧力」と「分離性能」のバランスだと思います。
粒子径だけが重要なら,sub-2μm粒子といわずsub-1μm粒子にすればもっと良くなるでしょうが,問題になるのは「圧力」です。

ポンプヘッドにはカラムから「バックプレッシャー(背圧)」がかかります。このバックプレッシャーは充てん剤粒子径の二乗に反比例します。例えば同じサイズの3μm粒子カラムを2μm粒子カラムにするだけで (3x3)/(2x2)=2.25倍も圧力が高くなります。3μmを半分の1.5μmにすれば圧力は4倍に高くなります。
このように微粒子化に伴う対数的な圧力上昇に耐えうる設計がポンプやオートサンプラーなどの送液部に必要となり,部品コストは当然跳ね上がることになります。

カラムにも圧力の影響が大きく現れます。
カラムの入口と出口で「差圧」が生じますが,微粒子化に伴う大きな差圧を吸収するための充てん密度が必要となり,これが不足するとカラム内に空隙(ボイド)が発生しやすくなります。反面,充てん密度を過度に上げるとピークの対称性が悪くなったり理論段数が低下したりします。
また微粒子カラムほど通液時に圧力ストレスがかかるためにカラム寿命が短くなる傾向が現れます。また原材料や装置などのカラム製造コストも高くなります。
このように微粒子化に伴うリスクはカラム側にも発生します。

充てん剤の微粒子化により理論段数は向上しますが,それは「粒子径に反比例する」向上しか期待できません。たとえば3μmカラムを同サイズの1.5μmカラムに替えても理論段数は2倍しか向上しません。
つまり充てん剤粒子を小さくすると,理論段数は反比例的に向上するも圧力は対数的に跳ね上がる,ということになり装置への負荷が半端ない状況となります。
「だからUHPLCなのだ」ということでしょうが,「圧力と分離」のバランスが取れているなら,UHPLCが必須とは限りません。

「分離」を考えるために,以下のようなシミュレーションソフトを開発しました。

ピーク分離シミュレーター

このアプリは,2ピークの分離に関して保持時間や理論段数,分離度のどれかを入力して残りのパラメーター値を導く,というものです。

たとえば tR(1) = 10.0min, tR(2)=10.3min, N=10000 というピーク分離を想定します。

シミュレーション結果 [MENU 1]

この結果,二つのピークの分離度(Rs)は 0.74 で,クロマトグラムを見ても不完全分離であることがわかります。

充てん剤を微粒子化(理論段数を向上)して完全分離(Rs=1.5)にした結果が次です。

シミュレーション結果 [MENU 3]

完全分離は実現できましたが,理論段数は当初の約4倍が必要となります。
つまり充てん剤粒子径としては今よりも1/4にしなければなりません。たとえば現在3μm粒子の場合0.75μm粒子が必要となり,とても現実的ではありません。
さらには粒子径が1/4になるということはカラム圧力は16倍になります。現在10MPaだとするなら160MPa必要となり,そんなUHPLCは今のところ存在しません。
粒子径だけににこだわると現実から離れていくことになります。

簡単に分離改善する方法があります。それは「保持を引き離す」ことです。
理論段数はそのままで完全分離(Rs=1.5)になるようなtR(2)の値をシミュレーションした結果が次です。

シミュレーション結果 [MENU 4]

ピーク2の保持時間を10.3分から10.6分,たった0.3分延ばすだけで完全分離することができるのです。粒子径が同じなら圧力も同じです。微粒子カラムは必要ありません。
ではどのようにして0.3分延ばすのか,ということになります。これこそが「分離科学(Separation Science)」なのです。

答えは簡単。移動相組成などの分析条件を変更するか,性質の異なる固定相(カラム)を用いるか,です。

1) 分析条件

溶質1と溶質2の構造の違いを把握し,固定相との分子間相互作用を考慮して分析条件を見直します。たとえば pH,イオン強度,有機溶媒種,温度などの変更です。

2) 固定相

たとえば溶質1と溶質2の構造の違いがイオン性であるなら,従来のODSカラムから当社の 逆相+イオン交換 マルチモードODS, Scherzo(スケルツォ)カラムに変更することが有効かもしれません。

Scherzo C18ファミリー

微粒子カラムが不要ということではありませんが,分離に必要なのは粒子径だけではない,ということです。「固定相の選択性」は分離科学を支える重要な要素であり,溶質-固定相間の「分子間相互作用」を理解することが分離科学では常に求められています。
カラムはODSだけではありません。いやODSでもいろいろあります。