カラムのコラム (Columns for Columns) 2001-11-06
改訂2016-11-11
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ODS充てん剤の構造をご存じですか
 
ODS固定相構造図

HPLCでもっとも一般的なカラムはODSカラムです。 物質分離を決定づけるODS固定相はどのような構造をしているのでしょうか。

ODS固定相の構造はメーカーによって多少の差異があるために,A社カラムで分離できたものがB社でできなくなるということがあります。また同じメーカーが複数のODSブランドを発売していることもODS固定相の多様性を示すものです。
したがってすべてのODS固定相を正確に説明することはできませんが,本稿では一般的なODS固定相の構造について触れてみたいと思います。

代表的ODS固定相の構造を簡単に表現するなら,(1)シリカ基材の表面に,(2)オクタデシル基を化学結合させ,(3)残存するシラノールをエンドキャッピング処理したもの,ということになります。

(1) シリカ基材

クロマト材料のシリカは乾燥剤に使われるシリカゲルと同類です。異なるところは,精密分離のために数ミクロンという微小で均一な粒子が必要であり,さらに適度な細孔を有する純度の高い材料であるということです。
シリカの組成はSiO2と表記されますが,実際には水素(H)も含んでいます。シラノール(SiOH)が存在するからです。
シリカ粒子の骨格はシロキサン(Si-O-Si)結合による硬い三次元の網目構造ですが,表面にはシラノールが露出しており,このシラノールに有機化合物を修飾することによって化学結合型固定相ができています。多孔性シリカの場合は表面積が大きいのでシラノールの量も多く,これにより約20%の炭素含有率を有するODS固定相もできるわけです。
現在一般的に使われているのが高純度多孔性シリカというものです。10nmくらいの細孔を有する球状の粒子が低分子物質分離用ODS固定相の材料です。シリカを特徴づける要素としては,粒子径,比表面積,細孔径,細孔容量,金属不純物含有量などがあります。
粒子径はカラム効率に影響を与え,表面積はカラムとしての保持力,そして細孔径は分離対象となる物質の分子サイズに関係します。また金属不純物は,配位性化合物の分離に与える影響だけでなく,ODS固定相の合成の良し悪しにも影響する因子です。

(2) オクタデシル基

ODS固定相を決定づける重要な官能基です。直鎖状のアルキル基でC18H37の組成からできています。ちょうどステアリン酸のアルキル鎖と同じ長さであり,植物油などの「脂質」としての性質をもっています。分離対象物質が油に溶けやすいほど「油」としてのODS固定相に親和性が高く,結果としてODSカラムに強く保持をします。
「固定相の疎水性が高い」ということは,固定相上の油分(オクタデシル基)が多いことを一般には意味します。逆相クロマトグラフィーにとって,この疎水性がもっとも基本的な相互作用となります。
ODS固定相がオクタデシル基を有していることに関してはどこのODSカラムも同じですが,修飾密度(カバレッジ)が違うと分離の性質が若干異なってきます。すなわち,同じシリカ基材であってもODS密度の低いカラムは,保持が短くなったり,副次的相互作用により分離特性が変化します。ODSカラムがどれも同じ分離を示すとは限らないのは,これが大きな原因のひとつと考えられます。

(3) エンドキャッピング

ODSの歴史の初期には行われなかった処理です。酸としてのシラノールが塩基性化合物などのピーク形状や保持挙動に影響を与えることがわかってから,その影響を取り除く処理としてODS充てん剤合成工程に組み込まれたものです。現在の汎用ODSカラムのほとんどはこのエンドキャッピング処理が施されています。 このエンドキャッピングの処理方法はカラムメーカーによってさまざまであり,その結果としてのピーク形状や溶出特性に影響を与える大きな要因となります。

ODS固定相を構成するいくつかの要素の組み合わせにより,いろいろな特徴をもったODSカラムができあがっています。各社のODSカラムの特長をうまく使い分けることによって,より良い分離が可能となるはずです。

( 矢澤  到 / インタクト株式会社, YAZAWA Itaru / Imtakt Corp. )