カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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もひとつ,圧力について

2001/07/03

 

今回もHPLCカラムの圧力について。

HPLCカラムには通常高品質のステンレススチール(SUS316)が用いられます。これは以下の理由からと考えられます。

(1)塩類による「さびの発生」を防ぐため
(2)種々の溶媒に対する耐久性が必要であるため
(3)高圧下で運転できる「耐圧性」が必要なため

以前書きましたが,HPLCは過去「高圧液体クロマトグラフィー」と呼ばれたことがあります。微粒子を充てんしたカラムを使って高速に分析すると,必然的に「高圧」がかかるためです。耐圧性の材料としては金属が最も適しており,分析用カラムに用いられるステンレス管は一般に約50MPa以上の高耐圧性を有しています。

日常ODSカラムで分析するとき,メタノール/水を移動相にすると,約20MPaという圧力がかかることがあります。この20MPaという圧力は,日常生活にはあまり縁のない圧力です。たとえばサッカーボールは約0.1MPa,乗用車のタイヤの空気圧は約0.2MPa,水道水だって0.6MPa程度ですから,ふだん1MPaの圧力がかかるような環境はほとんどないといってもいいくらいです。

HPLC分析で発生する20MPaがどれくらいの力であるか,想像することは難しいのですが,海に例えるなら,深さ約2000mの海底にかかる圧力に匹敵します。人間が素潜りで到達できる限界は約150mですから,2000mの深さは耐圧性の装置なくしては到達できない極限的環境といえます。

「しんかい2000」という調査船があるのをご存じでしょうか。深さ2000mの海の底を調査する,有人潜水調査船 (定員3名)です。これは文部科学省の研究組織である海洋科学技術センター(JAMSTEC)が所有するもので,深海の生物や地質調査などに活用されているようです。

海洋科学技術センター(補足:2004.4より独立行政法人海洋研究開発機構)の詳細は以下のURLにあります。

http://www.jamstec.go.jp/

ここには深海画像データベースというのがあって,世界の海底の様子が閲覧できる,とても興味深いデータベースです。
しんかい2000で撮影された海底写真を見ていると,ふだん何気なく使っているHPLCやカラムの中にも,2000mの海底と同じような神秘さが潜んでいるような気がしてきます。

と,思いつつ同センターのホームページを見ていたら,なんと「しんかい6500」という,6500mまで潜航できる有人調査船があるのですね。科学技術の進歩には驚かされます。少し調べてみたら,この「しんかい6500」に使われている耐圧性の外壁には,ガラスをフィラーとしたプラスチックが使用されていることがわかりました。

深海調査船の高耐圧材料に使われるガラスと,HPLCカラムに使われるシリカ。これら同質の材料は,圧力という意味で,縁深いものを感じます。

(矢澤  到)