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HPLC分析では、試料分析を行う前にシステム適合性試験(System Suitability
Test:SST)を実施することが一般的です。
理論段数、テーリング係数、分離度、ピーク面積再現性などが規定値を満たしていることを確認してから分析を開始します。
この手順は薬局方にも記載されており、現在では当然の操作として受け入れられています。 しかしここで一つ、基本的な疑問があります。
システム適合性試験とは、いったい何を見ているのでしょうか。
1.
システム適合性試験の始まり
クロマトグラフィーが医薬品分析に使われ始めた1960年代、装置の性能は現在ほど安定していませんでした。
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ポンプ流量のばらつき
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検出器のドリフト
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カラム性能のばらつき
これらにより、同じ条件であっても分離結果が変わることがありました。
そこで導入されたのが
分析前に装置状態を確認する という考え方です。
この概念は
United States Pharmacopeia(USP)<621>
Chromatography によって体系化されました。
2.
SSTで評価している項目
現在のHPLCでは、主に次のような項目が評価されます。
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理論段数(カラム効率)
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テーリング係数(ピーク形状)
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分離度(ピーク分離)
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保持時間再現性
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面積再現性
これらが規定値を満たせば、「システムは適合」と判断されます。
しかしこれらの指標のほとんどは
カラム性能に依存するパラメーター です。 したがって実際にはSSTは
システムの確認というより、カラムの状態確認
として機能している場合が多いといえます。
3.
堅牢でない分析法はSSTが不合格になりやすい
SSTが不合格になる理由は、分析法そのものが十分に堅牢でない場合もあります。
例えば分離度の規格が Rs > 2.0 であり、実際の分離度が
Rs = 2.05 程度しかない場合、わずかな条件変動で規格を満たさなくなります。
このような方法では、SSTは
システム確認ではなく、方法の不安定さを検出する試験 になってしまいます。
4.
分析法移管で起こる問題
医薬品分析では、試験法が別の研究所や工場、あるいは提携先に移管されることがあります。このとき問題になるのが
カラムブランドの違い です。
同じ「C18カラム」であっても、メーカーごとに以下が異なります。
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シリカの性質 (細孔径、比表面積、細孔容量)
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表面処理方法(リガンド修飾、エンドキャッピング)
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リガンド構造(密度、イオン性)
その結果、同じ分析条件でも以下の問題が容易に生じます。
カラムの性質が違うのに同じ分析条件で分析するため、SSTが不合格になるのは当然です。それはシステムの問題ではなく、使用しているカラムが異なるため
です。
極端な場合には、元の試験法そのものが成立しないこともあります。
5.
SSTを適用するための重要なこと
一般に分析法は特定のカラムの特性を前提として設計されています。分析法のバリデーションでも同じブランドのカラムを使います。
メソッド策定時のカラムと異なるカラムを使用すれば、同じ結果にならないのは当然です。
その意味ではSSTを適用するためには、以下のことが極めて重要となります。
システム適合性試験は、試験策定に用いたカラムと同じ製品を用いること
6.
まとめ
システム適合性試験は、もともと「装置のばらつきを確認するため」に導入された概念です。しかし現在のSSTはカラム評価試験として扱われている現実があります。さらにはSST
があたかも分析法バリデーションであるかのように勘違いされている風潮もあります。
分析法移管の際には
カラムの違いが試験結果に大きく影響する ことを理解する必要があります。
SSTが不合格になったときには、
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システムの問題なのか
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カラムの問題なのか
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それとも試験法の問題なのか
を見極めることが重要です。
クロマトグラフィーでは「同じC18カラム」でも性質が同じとは限りません。
この基本を理解することが、SSTを正しく解釈する第一歩です。
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