カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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山本直純さんと日本の作曲家のこと

2002/08/22

 
カラムとあまり関係ないのですが・・・。

山本直純さんが去る6月18日(2002年)に亡くなられました。69歳でした。
山本直純さんといえば,30年ほど前にチョコレートのテレビコマーシャル「大きいことはいいことだ」で全国的に有名になった作曲家です。映画「男はつらいよ」や大河ドラマ「武田信玄」,アニメ番組では「マグマ大使」や「新オバケのQ太郎」など,そして童謡でも「一年生になったら」や,ご自身の作詞による「こぶたぬきつねこ」など,多くの名曲を残されました。札幌オリンピックの入場行進曲も山本さんによるものだそうです。

学生のころ,「オーケストラがやってきた」というテレビ番組をよく見ていました。山本さんの指揮やアレンジなどがとてもおもしろく,音楽の楽しさを伝えてくれる番組だったと記憶しています。独特の風貌や大袈裟な指揮ぶりは,いわゆる純粋なクラシック音楽の世界からすると少し距離があるようにも見えますが,一方で前衛的な音楽も作曲していました。国連コンサートで小澤征爾さんが指揮した「オーケストラのための三つのスペース 天・地・人」という和太鼓が登場する壮大なオーケストラ曲があります。山本さんが指揮者だけでなく,現代の作曲家としても一流であったことを証明する作品です。
世界的指揮者である小澤征爾さんによれば,最初の指揮の先生が山本直純さんでした。「お前は頂点をめざせ。俺は底辺を広げる」と若いころの小澤さんに語ったそうです。そして,その後のお二人の活躍は,まさにその言葉どおりになりました。

その当時の音楽番組として「オーケストラがやってきた」のほかに,もうひとつ「題名のない音楽会」がありました。こちらはどちらかといえば硬派で,司会は作曲家の黛敏郎さんでした。黛さんの番組構成はたいへん高度で,毎回音楽の本質に迫る鋭い内容でした。クラシックに限らず,ジャズやラテンや民族音楽などのあらゆるジャンルを対象に,時には現代音楽も取り上げるなど,音楽の深みを追求した充実の内容でした。残念ながら彼も1997年4月10日に68歳で他界しました。作曲家として著名であり,「BUGAKU」,「涅槃交響曲」,「曼陀羅交響曲」など,東洋をモチーフとした現代的な管弦楽を数多く残されました。東京オリンピックの記録映画や「天地創造」など映画音楽もたくさんあります。調べてみたら,新幹線の車内アナウンス音楽も彼の手によるそうです。

山本さんや黛さんのほかに,戦後日本の音楽界を支えてきた偉大な前衛作曲家が,近年相次いで世を去りました。柴田南雄(1996年2月2日,79歳),武満徹(1996年2月20日,65歳),団伊玖磨(2001年5月17日,77歳)の各氏です。

柴田南雄さんには合唱曲の分野ですばらしい作品があります。「追分節考」,「念仏踊」,「萬歳流し」,児童合唱のための「北越戯譜」など,合唱の歴史を変革するような斬新さがあると思います。彼はそれを「シアターピース」と称しています。
「シンフォニア」,「カドリール」などの印象深い器楽曲も数多くあります。また作曲家の立場から書かれた多くの音楽評論には鋭さと説得力がありました。筆者の手元にある「楽のない話」,「音楽の理解」などは入門的ですが,柴田さんがあらゆる音楽に造詣の深い知識人であったことを示しています。FM放送「作曲家の目」を長年担当され,民族音楽など世界中の音楽をわかりやすく解説されました。豊富な知識をひけらかすことなく淡々と語るその口調が,今でも忘れられません。

武満徹さんは日本の作曲家としてはおそらく世界で一番知られている人ではないでしょうか。筆者が学生時代に直接見て好きになった曲に,琵琶と尺八とオーケストラによる「ノヴェンバー・ステップス」がありますが,「西洋」と「東洋」の融合などという意識すら感じさせない新しさとスケールの大きさがあります。1970年代当時「実験音楽」的にいろいろな楽器の組み合わせの現代曲が流行していましたが,この曲はそれを超越しています。
武満さんの楽曲の多くは繊細で宇宙的な音色を持っていると思います。空から音が降ってくるような感じの音楽です。「鳥は星形の庭に降りる」,「地平線のドーリア」などのタイトルもそう思わせるのかもしれません。
一方で,武満さんもかなり庶民的な楽曲を残しています。映画音楽「砂の女」「天平の甍」「乱」「写楽」,TV「夢千代日記」,フォークソング「死んだ男の残したものは」などです。
近々,彼の膨大なCD全集(55枚)が発刊されます。いまだに武満さんの人気は衰えていないようです。

団伊玖磨さんはオペラ「夕鶴」という代表作のほか,童謡「ぞうさん」「山羊さんゆうびん」,唱歌「花の街」でも知られています。皇室とのつながりも深く,現天皇陛下のご成婚を祝賀した「祝典行進曲」は吹奏楽の方にはおなじみのはずです。作曲だけでなく,週刊誌の随筆「パイプのけむり」を30年間にわたって書き続けてきた偉業も残されています。音楽に限らず話題が豊富で,随筆家としてもすごい人だったと思います。

前衛的な音楽を書く一方で,庶民的で親しみのある作品や番組を提供し,音楽の楽しさを伝えてくれたこれらの方々の業績は,私たちの心の中にいつまでも残り続ける財産であると思います。

山本直純さんは,同世代で親友の指揮者・岩城宏之さんによれば,60人もいるオーケストラのなかで,ひとつの楽器が発する不協和音も聞き分ける耳を持つ人で,音楽に関しては天才的であったそうです。
かなりこじつけにはなりますが,山本さんの音の識別能力のように,カラムにも多成分中の1成分を分離する分解能が要求されます。ていねいに作らないとその能力が発揮できません。固定相の設計には繊細さが必要であり,その意味で「HPLCカラムもアートだ」と思うことが時々あります。