カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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ワールドカップとドーピング

2002/07/23

 
ロナウドの機敏なシュート。カーンの鉄壁な守り。勝利の女神は少しだけブラジルに味方して,ワールドカップが終わりました。あと100年は日本にやってこないかもしれないこのビッグイベントは,日本や韓国の決勝トーナメント進出という快挙や,フランスやアルゼンチンの予選敗退など,さまざまな感動や驚きを我々に与えてくれました。

しかし思い返せば,大会前にはいろいろな不安材料がありました。高原選手のエコノミー症候群,西沢選手の虫垂炎の手術,そして小野選手までもが「虫垂炎では?」という報道が流れました。事実,彼は大会後に手術をしましたからこの報道は正しかったことになります。

ところで,虫垂炎というのは細菌感染による病気だそうで,薬物治療には抗生物質が用いられるようです。いわゆる「薬でちらす」という療法です。
この虫垂炎の治療薬のために,大会直前に「小野選手がドーピング検査にひっかかるかもしれない」という不安な報道が流れました。彼がドーピング被験者となったかどうかはわかりませんが,大会終了後にドーピング検査対象240件に関してはすべて陰性という発表がされましたから,ひと安心です。

スポーツにおける薬物ドーピングは二つに大別されると思います。ひとつは筋肉増強などのために意図的に薬物使用する悪質なもの。もう一つは病気治療などのために服用する薬物が,意図しないにもかかわらず陽性になってしまうものです。前者には,筋肉増強関連物質としてのアナボリックステロイドや男性ホルモン,成長ホルモンなど,そして興奮剤関連物質としてのアンフェタミン,アドレナリンなどがあります。後者としては,風邪薬や鎮痛薬としてのメチルエフェドリン,マオウ,フェニルプロパノールアミンなどです。
何気なく服用する栄養剤でも,陽性になってしまうものがあります。たとえば高濃度のカフェイン入りの疲労回復ドリンクです。スポーツ選手は試合前の飲食物にはよほど注意しないといけません。

ドーピング検査には,それを専門とする受託組織があり,そこではHPLCも活躍しているようです。ドーピング対象薬物は医薬品の仲間が多いことから,分析にはHPLCを使用する頻度も高いと想像します。コンビニでも買えるような医薬品も対象となると,すべてのドーピング薬物を定量するのはたいへんなことでしょう。
ワールドカップとHPLC。一見全く関係がないようですが,華やかな舞台の裏でつながっていることは,大変興味深いものがあります。

ゴールポストにいつまでももたれて座り込んでいたカーン選手の姿は,大会MVPにふさわしい印象的な光景でした。2006年の自国・ドイツ大会では,きっとまた彼の勇姿と,もしかすると最高の笑顔が見られるかもしれません。
我が国もジーコ新監督のもとに,ぜひとも予選を突破してほしいと思います。

(矢澤  到)