カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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純度99.999%シリカはほんとうでしょうか?

2002/06/20

 
いつくかのODSカラムメーカーのカタログには,「純度99.999%のシリカ基材を使用しています」という表記がされています。ほんとうでしょうか?

あるカラムメーカーの開発関係者に尋ねたことがあります。

「純度99.999%(ファイブナイン)のシリカということは,不純物が10ppmということですよね。ということは,金属不純物の総量が10ppm以下であることを保証しているのですか?」
答えに驚愕しました。
「いえ,トータルではなく,各金属不純物が "それぞれ" 10ppm以下のことを表しています。」
「ということは,たとえば9ppmの金属が2種類含まれているだけで,99.999%を超えることになりますね。」
「そうですが,99.999%は営業上のトークとして使っているために,仕方がないのです。」

およそ先進技術を売り物にするカラムメーカーの技術者の言葉とは思えない,非科学的な理由に次の言葉が見つかりませんでした。
あれから10年。その後に発売された製品でも相変わらず「99.999%」をうたっています。その製品のバリデーション対応カラムの「品質証明書」に記載されている金属含有量の「規格値」を合計すると10ppm以上になってしまいます。つまり各金属の含有量がそれぞれ規格値ぎりぎりのときは,その総量は10ppmを超えてしまうことになり,これでは99.999%純度ではなくなることを示しています。
「高純度シリカ」という抽象的な表現はあるにしても,「99.999%純度シリカ」という具体的数値を示す以上は,その科学的根拠が必要になると考えます。このメーカーは日本市場でも有名なだけに,カラムユーザーに対する影響は少なくありません。純度の高いODSカラムという印象を植え付ける「戦略」としては成功しているのでしょうが,そこにある数値は「科学」ではありません。このような数値を「営業トーク」として利用することは,同じ技術屋として理解に苦しみます。

そもそも純度99.999%のシリカ基材は存在するでしょうか?
金属不純物にしても,いくつかの金属の総量が10ppm以下である,ということは言えても,すべての金属不純物の総量を示すことは困難です。測定していない金属まで含めた純度を保証することはできないはずです。
それ以上に,シリカの純度に関しては業界や学会ではあまり語られない重要なことがあります。
シリカの不純物は金属だけか? ということです。もし金属以外の不純物が多量に含まれている場合は,99.999%どころの話ではなくなってしまいます。
シリカを合成する方法はいくつかありますが,最終的にゲル化させるためにはpH調整剤が必要となります。「酸」や「アルカリ」,あるいは「塩」の場合があります。いずれの場合でもこれらの添加剤を最終的に洗浄しなくてはなりません。この添加剤を取り除くにはよほどの洗浄をしなくてはなりません。しかし,どんなに洗浄しても数10から数100ppm残存してしまいます。さらに合成過程上の有機物の不純物が含まれることも往々にしてあります。これなどは極端なときには数100から数1000ppmの値を示すこともあります。
シリカ純度99.999%を標榜するなら,これらの不純物も含めて総量10ppm以下を保証しなくてはなりません。

半導体に使用されるシリコンウエハーは,ほとんどケイ素だけからなる単結晶ゆえに,99.999999999% (イレブンナイン)というきわめて高い純度が可能ですが,充てん剤に使用されるアモルファスシリカの99.999%という純度は,その合成工程を考えると現実的にはほとんど不可能と考えられます。結晶性シリコンとは異なり,酸素原子や水素原子を含む複雑な三次元構造をとっており,さらに細孔の制御のための添加剤を必要とするからです。

メーカーである以上,マーケティング戦略としての営業トークは必要ですが,数値を掲げる以上はその根拠がなくてはなりません。
カラムユーザーはたいへん謙虚な方々が多く,メーカーの科学的な表現がそのまま受け入れられる場合が少なくありません。科学分野ビジネスに携わる者のルールとして,科学的根拠の乏しい「数値」を営業的に使用することは,できるだけ避けるべきではないかと思います。